Watanabe, 1996, Does grammar translation come from the entrance examination? Preliminary findings from classroom-based research. Language testing, 13, 318-333.

渡部良典先生の、試験の波及効果washbackに関する論文。語学研究所の調査によると、「大学受験は日本の学校英語教育に大きな(negativeな)影響を与えている」(『現代英語教育』1988年8月号)というが、果たして実際はどうなのか、授業観察を行い、empiricallyに検証した研究。
 先の語研の調査は、「大学受験に打ち勝つためには、GT methodが必要」と結論づけているが、それが正しいならば、「試験がかわれば、指導がかわる」のか? 先行研究によると、washbackは必ずしも「自動的に発生する」ものではないという(試験が変わっても、指導が変わらないことはよくある)。
本研究の目的は、GT methodに関して、教室内の指導における「受験の持つ影響力」を実証的に解明することである。
1.現状:実際に受験ではGTに関する質問がされているのか?を調べたところ…63%の大学で訳読は出題されている(1994、旺文社「全国大学入試問題正解」)。が、国立大学の方がその傾向が強い。国立大の8割は訳読があり、私立は4割。
2.観察の対象:予備校で教える教師A(夏期講習。コースA=国立大向け、リーディングの授業。コースB=難関私大向け、訳読はほとんど出題されない大学向けの授業)と、教師B(冬期講習。コースC=国立大向け、リーディングの授業、コースD=難関私大向け、訳読はほとんど出題されない大学向けの授業)を見学。教師のインタビューにより、明らかになったことは、教師A=20代後半、5年の教師歴、大学院で認知心理学専攻。教師B=30代前半、5年の教師歴、英語学専攻、特に生徒のcommunicative skillを伸ばすことに興味を持っている。
3.データ採取法:カセットによる録音、筆記記録、授業後のインタビュー。
4.データ分析:訳読、文法説明にかけた時間を測定。
5.仮説:訳読にかける時間は… I「コースA>コースB」II「コースC>コースD」III「コースA=コースC」IV「コースB=コースD」
6.結果:①筆記記録(felid noteから)教師Aの方が教師Bよりも詳細に構文解説を行った。教師Aの方が教師BよりもよりGT法を使用しているようであった。②quantitative data:同程度の語数のテキストに関して、教師Aの方が、GT的な説明に長い時間を費やしていた。 コースと教師の変数を考慮してみると、教師Bに関しては、コースCの方がコースDよりも長い時間、GTに費やしており、仮説IIは支持されたが、教師Aに関してはコースA=コースBとなり、仮説Iは棄却された。訳読授業でないコースに関して(私大向け授業)、教師によって、GT法の使用時間にも有意差がみられた(教師Bの方がGT法に費やす時間が少なかった)。国立向けの訳読授業では、教師によるGT法に費やす時間差はみられなかった。これらのことから、仮説3は支持され、仮説4は棄却された。特に興味深い点としては、コースDにおいて教師Bは、ほとんどGT法を使用していなかった。これらの結果をまとめると、「訳読式が必要とされるコース(国立向け)では、教師AもBも同様にGTを行っており、そうではないコース(私立向け)では、教師AとBの教え方に差が有り、教師Aの方がよりGT法を使っていた」ということになる。
考察:本研究では、教師Bに関しては、「試験に訳読がでる大学を対象としたコースの場合は、GTメインで、そうでない場合は、GTは使わない」というように、試験のWashbackが顕著に現れたが、教師Aに関しては、「試験に訳読がでようがでまいが、同じようにGT法を使っている」という結果が得られた。この結果から言えることは、「大学受験」が指導に及ぼす影響というのは、教師によって異なる、ということである。では、なぜこの様な結果となったのか?
 ①教師のeducational background/experienceの違い。教師Aは言語学の理論面を大学院で学び、教師Bは高校教員の経験があった。教師Aは国立大卒、教師Bは私大卒。②教師のBeliefの違い。教師A「生徒がテキストの意味をよりよく理解するためには、問題形式がなんであれ、文の構造を説明し、訳すことが大切」という信条。教師B「英語教育はどんな状況でも、生徒のcommunicative competenceを上達させるものであるべき」「教師は生徒のニーズに応えるべき」という信条。