David F. McCarger. 1993.
Teacher and Student Role Expectations: Cross-Cultural Differences and Implication. MLJ 77 ii.

teacher/students’ roleの認識に文化差があるのか、教師と生徒の間で認識に差があるのかを調べることを目的とした調査。著者が開発した質問紙調査(Survey of Educational Expectancy, SEE)をアメリカ人のESL教師41人・ESL生徒161人に実施。ちなみにSEEは、「言語学習の生徒は……しなければならない−強くそう思う、そう思う、どちらともいえない、そう思わない、強くそう思わない」など、「生徒/教師は…であらねばならない」というexpectancyを段階的に評価する19項目から成っている。結構面白そう。
 分散分析の結果は……独立変数=cultural group(インドネシア、中国、韓国、日本、ペルー、アラブ、タイなど). 従属変数=SSEの総計。student classroom behaviorを除いて、そのほか全て(生徒の誤りへの生徒/教師の態度、生徒・教師の関係、生徒と教師の非同意、生徒の学習への動機付け、生徒の活動への参加などなど)の面で、cultural groupのSEEは有意に異なっていた。つまり、違うcultural backgroundを持つ生徒は、生徒・教師がどのように学習・授業にとりくむべきかというexpectancyが異なる。事後検定としてダンカンのnew multiple rangeを使って、648の組み合わせでグループ間の差異を見てみると、80(12パーセント)の組み合わせで有意に差異がみられた。例えば、日本は、「教師がどのような教育的アプローチをとるべきか」という点でインドネシア、韓国、ペルーと異なっている、など。最も異なっているグループが多かった項目が、「教師が教室内で生徒のエラーをどう取り扱うか」。
 RQ2に関しては、162の可能性において、37(22.8パーセント)は、教師・生徒間で認識にズレがあった。特にズレが多かったのは、「教師・生徒の関係」で中・韓・ぺる・アラブの生徒と米人教師の間に乖離あり。生徒・教師の間には19項目中14項目において、考え方のズレがあった。
 生徒の動機付け(何のために言語を習っているか=文化理解・自己表現・就職・興味・試験のため)に関しては、文化差異のそれほどなく(中国・ヒスパニック、韓国・ヒスパニック、アラブ・ヒスパニックの組み合わせのみに有意差あり)、教師・生徒の間でも有意差があったのはヒスパニックのグループと米人教師の組み合わせだけだった。日本人のステレオタイプは、この調査ではことごとく覆されている点が興味深かった。海外で勉強している日本人は、日本人の代表ではないのか?representative sampleを選ぶのって、難しいよね。
 結論としては、文化背景の違う生徒同士の間にも、教師と生徒の間にも、教師&生徒の役割/関係の認識に、異なる点があることがわかった。日本人を除いては、生徒は、教師よりも、もっとteacher-oriented environmentを期待している。個人差が強くでた項目もあった。エラーコレクションに関しても、様々なexpectancyが見られ、これはsensitiveな問題であることがわかった。生徒は、教師が与えたいと思っている以上のエラーコレクションを望んでいる。生徒の誤りに対する認識の捉えたかも様々。
 教育的示唆。教師は生徒のexpectationをよく知るべき。現在奨励されている教授法が、必ずしも生徒の望むものと一致しているとは限らないことを、教師が認識するべき。
 問題点 ①SEEの信頼性係数が0.6とやや低い。②教師と生徒の間に、性差、年齢差、文化的背景差など、異なる点が多々あって、両者のSSEの結果の差が「教師・生徒」という立場の差を反映したものなのか、その他の異なる点を反映したものなのかがはっきりしない。③因子分析が必要(だけどそれにはサンプル数が少なすぎる)④サンプル数が少ないので、representative sampleになっていない。6人のヒスパニックが、ヒスパニックの代表になれるのか?大体、「ヒスパニック」「アラブ」というくくりがおかしい。タイにいたっては、3人しかいない。
 一般論として「文化が違えばexpectationも違う」「生徒と教師の間でexpectationが違う」と思われてはいるのだろうが、それをempiricalに検証している点は、評価できると思うし、面白い。ただ、サンプルに問題があるので、homogeneousなグループごとに、同一尺度で、expectationをまとめて、それを比較してみたらいいんじゃないかな。海外でL2教えている人とお友達になって、比較研究してみたいなぁ。
 それから、生徒と教師のexpectationの違いも、homogeneousでやっても面白いから、試してみてもいいかも。SLA理論で奨励されている教授法に対して、生徒がどう反応するか?なども。
 事後検定として、ダンカンの方法を使っていたけれど、統計の先生が、「ダンカンの方法は使うな」と言っていた。理由は教えてくれなかったけど(説明しても私らには理解不可能だと思っていたんだろう)。テューキーの方法で出た結果もちらっと表にのせてあったけど、ダンカンとは全く違った。なぜダンカンにしたのか、なぜダンカンじゃダメなのか??疑問は残る。