原田三千代, 2006, 中級学習者の作文推敲過程に与えるピアレスポンスの影響, 日本語教育131号 p. 3-12.
中級の日本語学習者10名が被験者。ピアレスポンス群(Pグループ)と教師添削群(TFグループ)に分け、6つの作文を書かせた。1回目と6回目は自己推敲(誰からのFBも受けない)とし、2-5回目を、それぞれグループの対象者からFBを得た。Pグループに関しては、4時間のFBトレーニングあり。
データの分析としては、6回分の作文を採点者が採点しt検定している。ちなみに、一回に2本の作文(第一作文→ピアレスポンスor 教師添削→第二作文)を書いており、本来ならば各回ごとに第一作文と第二作文の差をt検定すべきだけれど、差が僅少だったために、各回の第二作文の平均点をt検定している。
結果は、第六回目の作文においては、内容に関する点数はP群の方が有意に高かった。形式に関する点数は有意差がなかったものの、第4,5回では形式に関しては教師添削群のほうが有意に高い点数をとっているので、教師添削群は添削により文法を改善させ点数を稼いだが、自己推敲となると、その効果がなくなったため、教師による形式に関するFBが生徒の内に内在化されていない(根付いてない)といえる。一方、ピアレスポンスは内容に関しては有意に働いており、ちゃんと生徒の内に内在化されたようだ。著者はこれをVygotskyのZone of proximal development理論を用いて説明しており、共同作業によるZPDの活性が内容面の向上の内在化につながったとしている。
ピアFB中の音声データやアンケートデータなども補完的に使用しており、多角的で面白い。ただ一つ不明瞭な点としては、教師のFBの内容がよく分からない。もしかして、教師は文法面に関するFBを多くあたえていて、ピアは反対に内容面に関するFBを多く与えていたのではないだろうか?(ピアは学習者であるために、文法面には自信がないしエラーに気づかないこともあるので、文法のエラーを指摘しない代わりに、内容面中心のFBになっていた可能性はある。実際に、ピアレスポンスは内容中心、教師のFBは形式中心という傾向があるという研究もある)。だとしたら、「ピアだから」内容面が向上したというよりも、「内容面中心のFBを受けたから」内容面が向上した、という可能性もあるのではないかと。あと、各郡5人ずつって、いくらなんでも被験者が少なすぎないかなぁとも思った。でも、ライティングにおけるピアフィードバックの有用性を示す研究としては面白い。6ヶ月(長期)というのも、よかったのだろう。